海外各地の旅行先で出会った鉄道風景を紹介します。日本国内の話題も時々。

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サバ州立鉄道・ボルネオ島唯一の鉄道路線 (前編)

[2013年6月]

マレーシア、インドネシア、ブルネイの3カ国に跨るボルネオ島は、面積が日本の二倍近くもある広大な島。しかし、鉄道が運行されているのはマレーシア領のコタキナバル (Kota Kinabalu) ~テノム (Tenom) 間のわずか135 kmだけです。「サバ州立鉄道」と呼ばれるこの鉄道、州自治政府による運営で、マレーシア半島部を走るマレー鉄道 (KTM) からも独立した存在となっています。2007年から運行を休止して近代化工事が行われていましたが、1年間の予定だった工事期間は延びに延び、2011年初めにようやく全区間で運行再開しました。今回は、そんな「サバ州立鉄道」の様子を紹介します。

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起点は、州都コタキナバルの外れにあるタンジュンアル (Tanjung Aru) 駅。空港のすぐ脇にありますが、街の中心部からは遠く、少々不便な場所です。今回は、前泊したホテルが駅への送迎を快諾してくれたので、楽々と駅に到着。駅舎の隣にある食堂 (写真中央の平屋の建物) で朝食をとりつつ、列車を待ちます。タンジュンアルより更に北にスンブラン (Sembulan) という駅があり、一日一往復のみ列車が運行されていますが、少々不便な時間帯のため、残念ながら今回は見送りです。


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列車は、ディーゼル機関車1両と冷房付き客車3両の計4両編成で、客車側にも運転台を設けたプッシュプル方式の車両です。中国南車による製造で、ベトナム鉄道のD19E形機関車 (後期型) とそっくりの顔つき。ちなみにこの車両、路線の近代化工事に合わせ、2009年に4両編成2本が製造されましたが、投入直後に早速1編成が踏切事故で廃車されてしまい、現在は1本のみが在籍しています。


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サバ州立鉄道で運行される旅客列車は、一日わずかに3往復ですが、週2日のみ、蒸気機関車牽引による観光列車「北ボルネオ鉄道 (North Borneo Railway)」が、途中のパパール (Papar) までの区間で運行されています。この日はたまたま運行日に当たったようで、ホームでは専用の客車が運行の準備中。しかし、肝心の蒸気機関車がまだ入線しておらず、その勇姿は拝めずじまいです。


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こちらは、プッシュプル車両と同じ顔つきのディーゼル機関車。製造時期も同じく2009年です。よく見ると、プッシュプル車両とは微妙に塗り分けが異なっています。数両の非冷房客車を連結しています。


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この非冷房客車の編成は、前述の事故廃車されたプッシュプル車両の代打として、一部の旅客列車に充当されています。完全冷房のプッシュプル車両とは設備面で随分格差がありますが、どちらの車両が来るのかは運次第。幸か不幸か、今回乗車する列車は完全冷房の方です。


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「完全冷房」のプッシュプル車両の車内は、6、7割程度の乗車率。シートは集団見合い式の固定式クロスシートで、リクライニングこそ無いものの、雰囲気は特急列車のようです。この列車は、途中のボーフォート (Beaufort) までの運行で、タンジュンアルからの所要は約2時間です。


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タンジュンアルを定刻の7:45に発車した列車は、途中駅でも結構な数の乗客を拾い、車内はすぐに満員となります。以前は、ボーフォートまでの区間は並行道路の発達で客足が奪われ、列車もガラガラだったとのことですが、近代化工事に伴って列車が快適になったおかげか、まずまず盛況のようです。列車本数を増やしても良いように思いますが、線路容量が足りないのでしょうか。


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車窓からは海が見えたり、マングローブが群生する湿地帯を抜けたりなど、初めのうちは変化に富んでいますが、だんだんと単調になり、冷房が効いた快適な車内環境と相まって、少しずつウツラウツラと…。せっかく海外まで列車に乗りに着たのに、眠ってしまうのも勿体無いと思いつつ…。


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眠っているうちに、列車は終点のボーフォートに約10分遅れで到着。この駅でテノム行きの列車に乗り継ぎますが、接続が極めて悪く、乗継時間は4時間もあります。なお、現在のダイヤではタンジュンアルからテノムまでを日帰りで往復することはできません。


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ボーフォートには小さな車両基地も併設されています。手前に停まっているのはイギリス製の単行の気動車で、朝夕に運行されるハロギラット (Halogilat) 行き区間列車で使用されています。その向こうに見える深緑色の小型ディーゼル機関車は、日本車両製。サバ州立鉄道で使用されているディーゼル機関車は、前出の中国製新鋭機以外は、日車、日立、川崎などの日本製車両です。車庫の奥には客車の姿も見られます。


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ボーフォートの駅舎は立派な二階建て。中では売店や食堂も営業しています。


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ボーフォート駅の脇には、パダス (Padas) 川が流れています。ボーフォートから先、列車はこの川に沿って終点テノムまで走ります。この先の区間には並行道路がなく、今も鉄道が地元民の重要な足となっています。近代化工事が行われていた期間も、この区間では基本的に列車の運行が続けられていたようです。


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駅の回りをブラブラしていると、テノムからの列車がボーフォートに到着し、機関車の切り離し作業中。DE10に似た国鉄風の雰囲気が漂うこの機関車、前述の通りやはり日本製で、日立製作所との銘板があります。


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駅に戻ると、まだ改札前。ホームには、2両の小型客車と1両の荷物車が停まっています。機関車はまだ連結されていないようです。列車は13:30発。


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駅の待合室にはすでに大勢の乗客が。小型客車が2両では全員が座るのは厳しそうです。係員が気を利かせて客車を増結してくれないかな、などと願いつつ、改札が始まるのを待ちます。


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ところが…。客車は増結されるどころか、なぜか減車。たった1両の客車はすぐに満杯となり、溢れた乗客は隣の荷物車へ。私も荷物車に乗り込みますが、こちらもかなりの混雑で、一旦座ると身動きが取れません。どうも、何らかの理由で、牽引機が日車製の小型機に交換されたため、牽引力不足を考慮して減車されたようです。居住性は悪いですが、これも一つの経験。終点テノムまでの所要時間は約2時間半。途中で椅子にありつけることを願います。


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ボーフォートを出発した列車は、パダス川に沿ってゆっくりと走ります。荷物車の扉は開けっ放し。この区間は、川沿いの風光明媚な車窓と言われていますが、荷物車の床に座ったままでは外が良く見えません…。


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途中駅で少しずつ客が降りていき、車内に少し余裕が出始めた頃、なんとこの荷物車にも物売りがやって来ます。売っているのは、スナック菓子や冷たい飲み物など。私は何も買わなかったのですが、後でこのおじさんには助けられることになります。


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ボーフォートをほぼ定刻に発車した列車でしたが、どうやら結構遅れている様子。客車を減車しても、小型機にはなお荷が重かったようです。車外に見える捻じ曲がったレールは、恐らく2008年に発生した土砂崩れで流された時のもの。その事故では車両が川に転落し、行方不明者も出ました。


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途中のハロギラット駅で、乗客が一斉に下車。空いた席に座ってようやく一息、と思いきや、先ほどの物売りのおじさんが「テノム? チェンジトレイン! 」と。時刻表にはテノムまで直通のように書かれているのですが、実はハロギラットの両側で別々の列車が折り返し運転を行っており、ここで乗り換えとのこと。教えてもらえなければ、乗ってきた列車で危うくボーフォートまで戻されるところでした。おじさんには大感謝。乗り換え先の列車で席も確保し、今度こそ本当に一息つきます。


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ハロギラットから先は、急に線路状態が悪くなり、列車の揺れも相当激しくなります。先の土砂崩れでもこの区間は無傷だったのか、結果的に古い軌道が残ったままとなっているようです。あまりの揺れの激しさに、網棚の荷物が今にも落ちそうになります。仕方なく自分のカバンを膝上に抱えます。


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ボーフォート~テノム間は、軌道は古い一方、駅だけは綺麗に造り替えられています。時折見られる小さな停留所も、見るからに最近造り替えられた様子。なお、この手の小さな停留所は、ボーフォート~テノム間のみに見られ、時刻表にも載っていませんが、結構乗降があります。


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列車はパダス川にそって、一路テノムへ。列車が揺れて写真を撮るのも一苦労です。


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パダス川には流れの激しい区間があり、急流を利用したラフティングが盛んに行われています。川を下った後の帰路は、何と列車でボートを回送。連結されていた荷物車は、混雑時に乗客を押し込むためではなく、ラフティング用のボートを運ぶためだったようです。


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ハロギラットまでの遅れを引きずり、終点テノムには定刻より約50分遅れで到着。荷物車への乗車や、不意の途中乗り換えと、予想外のハプニングに翻弄されましたが、とりあえず無事に終点まで辿り着きました。最後に、今回乗ってきた車両を観察。牽引機は日立製の中型ディーゼル機関車。ボーフォート駅で見たDE10似の機関車とはまた異なる形状で、こちらはさしずめDD13というところでしょうか。


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短車体の客車はイギリス製。


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そして荷物車。中には少しばかり座席も設置されています。


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小さな列車とは不釣合いに立派な、テノム駅の駅舎。


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テノム駅の近くにも、小さな車両基地があります。かつてはテノムから先へ、まだ線路が延びていたとのことで、この向こうに廃線跡が残っているのかも知れません。この日はもう折り返す列車はなく、乗ってきた列車も車庫で体を休めます。私もこの街で一泊し、翌朝にコタキナバルまで戻ります。


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