ダラット高原の観光列車
[2011年12月]
ベトナム随一の避暑地として知られる高原の観光都市、ダラット (Đà Lạt)。かつては南北線 (統一鉄道) のタップチャム (Tháp Chăm) 駅からのこの街へも支線が伸びていましたが、ベトナム戦争後の復旧工事の際、ダラットへの支線は不要不急の路線として、資材供出のため廃止されてしまいました。現在はダラットから隣のチャイマット (Trại Mát) までの一駅区間が、「ダラット高原鉄道」と銘打った観光鉄道として復活運行しています。将来的にはタップチャムまでの全区間を復活させる計画もあるようです。
ダラットの街外れにある、廃線跡と見紛う雰囲気の線路。ダラット高原鉄道はこの雑草だらけの線路を走っています。
草ぼうぼうの線路を辿っていくと、ダラット駅が見えてきます。
「ベトナム一美しい駅舎」とも言われる、ダラット駅の駅舎。ダラットという街自体が、フランス統治時代に避暑地として開発されたというだけあって、当時から観光を意識したデザインに仕立てられたというところでしょうか。ベトナムの他の駅の無味乾燥な外観とは一線を画しています。
駅舎内。内装にも趣向が凝らされています。
プラットホームに入ってみます。
観光列車は、ディーゼル機関車牽引の客車列車です。牽引機は、現役路線でも入換用などで活躍中の、ソ連製の液体式ディーゼル機関車、D4H形。
「ダラット・プラトー・レイル・ロード Dalat Plateau Rail Road」と大書きされた客車。観光列車らしく改装されています。ダラット線が現役だった当時を模したのでしょうか。
列車は一日5往復。他の現役路線と同じく、地名に由来する列車名 (DL=ダラット) がつけられています。7:45発の第一便の切符を買おうとすると、「最低5人いないと動かさない」とのこと。私のほかに他に駅にいるのは、ひとり旅のベトナム人の若い女性だけ。列車に乗るかと聞いてみますが、返事は「No」。もちろん、1人が2人になったところで状況は何も変わらないのですが。
他の客が来ることを祈り、発車予定時刻ギリギリまで待ちましたが、第一便は遂に時間切れ。このままずっと客が来なければ、一日中列車が動かない可能性もある訳で、わざわざダラットまで来て失意のまま帰宅という可能性もでてきます。しかも私の場合、帰りの飛行機の時間があるので、第三便まで動かなかった時点でもうアウト。第二便の運行が行われることを祈りつつ、駅周辺で時間を潰します。
こちらは、駅ホームの隣にある、荷物用プラットホームと倉庫跡。先ほどのベトナム人女性曰く、フランスのアーキテクチャーなのよ、とのこと。
煉瓦造りの機関庫跡。一方で、現在使われている機関車たちは、いったいどこで整備されているのかという疑問も沸きます。
時間つぶしにも飽きて、一旦ホテルに帰ってから駅に戻ってくると、機関車と客車2両ほどがいなくなっています。どうやら私が駅を離れた後に急に客が集まって、本来の発車時刻が過ぎているにも関わらず、急遽列車が運行された様子。早起きしてやってきた私してみれば、何ともひどい仕打ちです。
第一便が戻ってきました。幸い、第二便を待っている客はそこそこいるようです。今回は窓口でもすぐに切符を出してくれます。しかし、往復10万6千ドン (約420円) とはちょっと高い気も。
客車は、乗客数によって連結数を増減させているようですが、第二便はフル編成の4両編成。客層もベトナム人団体客から欧米人のバックパッカーまで様々です。私の話し相手は、向かいに座っていた中国人のバックパッカー。
定時の9:50、いよいよチャイマットにむけて出発です。一見してどこにレールがあるのかわからない草むらの中を通っていきます。
「ダラット高原鉄道」という旅情を誘うネーミングに反し、景色は結構平凡です。雄大な車窓を期待して乗ってきた客も少なからずいるのではとは思いますが…。
乗り心地は推して知るべしといったところ。
ダラットは観光地としてだけでなく、冷涼な気候を活かした高原野菜の栽培地としても知られています。日本で栽培されている野菜は、大抵はダラットでも栽培が可能とのこと。実際に日系企業もダラットに進出しているようです。
ダラットから20分弱、終点のチャイマット駅に到着。チャイマットには他に交通機関はなく、折り返しの列車に乗り遅れると、ダラットに帰ることが困難になります。車掌が各乗客に折り返し便の発車時刻を念押しして回ります。
前述のとおり、この路線はかつて南北線のタップチャムまで線路が伸びていました。チャイマットからタップチャムに向かって、少し廃線跡を辿ってみようと考えていましたが、線路は駅の近くで唐突に終わっており、少なくとも歩いていける範囲で遺構らしき物を見つけるのは困難なようです。
チャイマットの駅前通り (?) の風景。折り返し列車の発車時刻までは30分少々ですが、それほど見て回るものはなさそうです。
チャイマット村中心部の全景。特にめぼしい見どころはなく、本当に単に隣の駅だったというだけで、観光列車の終着駅になってしまった感じです。将来的に、タップチャムまでの路線が再開した際には、再びその存在が忘れ去られてしまいそうです。
観光客が出払っている間に、列車は機回しを終了。
他の客が戻ってくる前に、車内の様子を撮影。この車両、かつてはかなり質素な内装だったようですが、現在は内外とも改装され、すっかり観光客向け仕様に変化しています。
帰りは最後尾から後面展望。線路にはバラストがほとんど残っていません。
往復で約1時間半でダラットに帰着。観光客は方々に散っていきます。次の第三便は、客が集まらずにまた運休となったようです。この観光列車だけを目当てにダラットに来るのも、ある意味博打のようなものです。
最後に、ダラット駅構内に停まっていたほかの車両を観察してみます。まずは、今回観光列車を牽引していたものと同型のソ連製D4H形ディーゼル機関車の色違い。稼働状況は不明です。
こちらは、後位側半分が居住スペースとなっている、変り種のディーゼル機関車TU6P (ТУ6П) 形。ソ連製。当初はハイフォン線などで運用されていたものの、あまりに非力なためダラット線へ転属となったとのこと。この車両も近年まで観光列車の牽引を行っていたようですが、現在の稼働状況はこれまた不明です。機関車後位の居住スペースはある意味特等席ですが、乗れるチャンスは少なそうです。
蒸気機関車131形。日本製のC12が流浪の末、ここダラットに行き着いたとのこと。ダラットの観光鉄道開業時、この蒸機も現役の牽引機として活躍していたそうですが、現在は恐らく稼動不可。もし本機が今も活躍していたら、このダラットの鉄道も今以上に客が押し寄せていたかも知れません。