バンコク ~ アランヤプラテート : カンボジア国境の町へ
[2011年11月]
バンコクからタイ国鉄東本線に乗り、カンボジア国境の町、アランヤプラテート (Aranyaprathet) に向かいます。東本線には定期の優等列車がなく、走っているのは全車三等車の普通列車のみです。終点のアランヤプラテートまで行く列車は、一日にわずか二往復。終点までは約250 km、片道約6時間の各駅停車の旅です。
アランヤプラテートまで列車で日帰り往復する場合、バンコク駅を朝5:55に出発する275列車に乗車する必要があります。まだ地下鉄 (MRT) も走っていない時間帯で、駅まではタクシーで向かいます。目当ての275列車 (写真左側) は、すでに入線して発車を待っています。
275列車は三等座席車6両と荷物車1両の計7両編成。もちろん食堂車など連結されていません。最後尾から、各客車の様子を観察します。まず1両目は、狭窓が特徴の旧型客車BTC426。
2両目と3両目は、不揃いな窓割が気になる旧型客車、BTC512とBTC514。近年のSRT (タイ国鉄) の標準塗色変更により、この車両も紫を基調とした最新塗色に変更されていますが、いかにも旧式な車体外観には少々似合わない気もします。車内は近郊型改造が施されています。
残り3両は、日本の国鉄10系客車似の主力車両BTC1000形。
この列車に連結されている3両のBTC1000形も、2両はすでに塗色変更済み。青白ツートーンカラーの旧塗色も着実に数を減らしています。
車内に入ります。こちらは、近郊型改造された旧型客車BTC514の車内。吊革の設置と、車端部のロングシート化が施されており、日本の国鉄型気動車の近郊型改造に通じるものがありますが、使用されている椅子は、市販の家具を流用したもののようです。少ない予算を遣り繰りした涙ぐましさも漂いますが、鉄道旅行を楽しむには少々風情に欠けます。
というわけで、今回も乗車したのは、国鉄10系似のBTC1000形客車。国鉄型らしい車内は、見慣れて安心できる雰囲気です。
まだ夜も明けない早朝のフアランポーン駅を、カンボジア国境に向けて出発します。
途中、ウボンラチャターニー (Ubon Ratchathani) 発の夜行列車と行き違い。通常は北本線のアユタヤ (Ayutthaya) を経由する列車ですが、洪水で一部区間が不通となっているため、東本線と東北本線の間の貨物用短絡線 (クロンシップカオ Khlong Sip Kao ~ケンコイ Kaeng Khoi 間) を経由しています。通常はお目にかかれない、珍しい光景です。
バーンプルタールアン (Ban Pluta Luang) 方面の路線と分岐する主要駅、チャチューンサオ (Chacheongsao) に到着。
バンコク~チャチューンサオ間は、区間列車も数多く運行されている利用率の高い区間で、この列車でも多くの乗客が入れ替わります。ここから乗ってくる客も多いので、車内は引き続き混雑しています。
チャチューンサオまでの区間は近代化改修が施されており、立派な駅舎やプラットホームが続いていましたが、その先は急に設備も貧相になります。一部のマイナーな駅は、プラットホームすらありません。
車窓には、のどかな田園風景が広がります。
比較的大きな途中駅のカビンブリー (Kabin Buri)。一日二往復しか列車がないとあって、多くの乗客が列をなして乗り込んできます。末端に近い区間でも、ローカル需要はそこそこあるようです。一方でバンコクから終点まで乗り通す客は、一部の外国人旅行者や鉄道ファンくらいと思われ、やはり頻繁運転しているバスの利便性には歯が立たないようです。
終点のアランヤプラテートには、定刻より1時間以上遅れて到着。遅れを含めたバンコクからの所要時間は約7時間です。
アランヤプラテートとは、タイ語で「国家の果て」を意味しています。まさに国境のための街です。かつてはこの駅を通ってカンボジアまでの直通列車が運行されていましたが、現在はこの駅で線路が途切れています。
国境超えの列車は廃止されましたが、比較的近年までは、少し先のクローンルック (Khlong Luk) 停留所、その先の国境近くのタイ (Thai) 停留所まで線路が伸び、旅客列車が運行されていました。現在はどちらの停留所も存在しませんが、駅名標は当時のままとなっています。将来的な復活を意図しているのか、はたまた単に変えてないだけなのかは不明です。
一日二往復のローカル線の終点ながら、国境の町の駅としてそれなりの風格を持つ、アランヤプラテート駅の駅舎。
駅前では、鉄道利用客目当てのトゥクトゥクが大挙して待ち構えています。
一方の私はというと、列車が遅れたおかげで滞在可能時間はわずか1時間15分。国境を超える時間もなくなり (最初からその予定も無かったのですが)、駅周辺をうろついて帰りの列車の発車を待つことにします。道路の看板には、国境まで6 kmとあります。
駅前の通りに沿って、カンボジアまで伸びていた線路の跡を見つけることができます。枕木はところどころ抜け落ち、残念ながら、容易に復活できるような状態ではなさそうです。
つかの間の国境の町散策を終え、ふたたびアランヤプラテート駅へ。当然ながら、往路に乗ってきた列車がそのまま折り返すだけです。
行きがけと全く同じルートを折り返すだけというのも芸がないですが、せめて往路と反対側の席に座って景色を楽しむことにします。
途中駅で、もう一本のアランヤプラテート行き列車、バンコク13:05発の279列車と行き違います。あちらはディーゼル列車。立ち客が出るほど利用率が高いようです。
広大な田園風景が広がる夕暮れの中を走る列車。延々と列車に乗っていただけの一日ももうすぐ終わりますが、バンコクまではまだまだ距離があります。
他の列車と同様、終点フアランポーン駅に近づくにつれ、乗客の姿は少しずつ消えていきます。
バンコク・フアランポーン駅には、定刻の19:55に到着。降りる客の数もわずかで、長時間乗車の後としては少々さびしい旅の終わりです。