ハイフォン線・首都と第三の都市を結ぶ主要幹線
[2011年11月]
ハイフォン (Hải Phòng) は、首都ハノイの東方約100 kmにある港湾都市で、目立った観光資源はありませんが、ホーチミンシティ、ハノイに次ぐ第三位の人口規模を誇る主要都市です。当然ながら、ハノイ~ハイフォン間の流動は大きく、両市を結ぶハイフォン線 (正式名: ハノイ-ハイフォン鉄道 Đường sắt Hà Nội-Hải Phòng) でも、比較的多くの列車が運行されています。多いと言っても旅客列車は1日4往復。線路容量の問題もあり、本数を増やしたくても増やせないという事情もありそうです。
乗車駅はハノイの市街地のはずれにあるロンビエン (Long Biên) 駅。9時半発のハイフォン行きLP3列車に乗車します。なお、ハイフォン線の4往復の旅客列車のうち、早朝にハノイを発ち、夜にハノイに戻ってくる一往復のみハノイ (B) 駅を発着しますが、残りの3往復はいずれもロンビエン駅が起終点です。牽引機は、ベトナム鉄道の主力である中国製ディーゼル機関車D19E形、通称「ドイモイ号 (Đổi mới)」です。
ロンビエン駅は、市場の近くにある小さな駅。ホン川 (紅河) のたもとにあり、川を渡るため、駅周辺部は高架となっています。設備的にはプラットホーム一面一線の小さな停留場で、こんな駅から長編成の列車が発着するのは少々珍しい光景です。ハノイ駅の容量の関係と、市中心部の踏切での渋滞を避けるための、いわば「苦肉の策」です。
ロンビエン駅には留置線も機回しの設備もなく、この駅発の列車は隣のザーラム (Gia Lâm) 駅から、最後尾に補機をつけて逆向きに回送されてきます。この補機は、ロンビエン駅出発後も最後尾に連結されたままで走り、ザーラム駅到着時に切り離されます。なお今回乗車するLP3列車は、ハイフォンからのLP2列車がそのまま折り返しとなる列車ですが、LP2列車はロンビエン到着前に先にザーラムで機回しを完了させ、補機をつけてロンビエンに到着する、という手の込んだことをしています。
ハイフォン行きLP3列車は、緑色車体のハードシート車が主体の編成。
最近は、ハイフォン線旅客列車のアップグレードが進められており、ロンビエン駅の構内にも広告が掲示されています。ただ、「HA NOI - HAI PHONG EXPRESS」と書かれたこの車両、見た目は緑色の車両より高級そうに見えますが、中身は従来と同じ木製の椅子。冷房付きなのがミソのようです。
本当に車内までアップグレードされているのは、こちらの青い車両。シート自体の快適性も改善されており、「デラックスハードシート」とでも呼ぶところでしょうか。車体側面には、ベトナム語で「火炎樹鉄道サービス会社 (Công ty CP dịch vụ đường sắt hoa phượng)」と書かれており、別会社により運行されている特別仕様の車両のようです。この車両に乗車する際は、 (ロンビエン駅では) 通常の列車とは別の窓口できっぷを購入します。
こちらは正真正銘の上級車両であるソフトシート車。同じく「火炎樹鉄道サービス」の車両です。LP3列車の編成としては、前方 (ハイフォン方) から、CVPĐ (乗務員居住区+電源車) - ハードシート車 x1 - デラックスハードシート車 x2 - 冷房木製ハードシート車 x1 - 従来型非冷房 (緑色) ハードシート車 x5、の計10両編成です (荷物車除く)。往路はソフトシート車に乗車してみます。
ソフトシート車の車内。特別仕様とはいえ、カーテンにフリルが付いた程度で、他の一般的なソフトシート車と大差はありません。乗車率は50%程度。
こちらは上述の「デラックスハードシート」の車内。ボックスシートであることには変わりませんが、居住性はかなり改善されているように見受けられます。その分、この席の値段設定も他の一般的なハードシート車両より少し高めに設定されています。
ロンビエン駅を発車した列車は、隣のザーラム駅からハイフォン線に入ります。終点ハイフォンまでは、ちょうど100 km、2時間強の旅です。列車はしばらく幹線道路と並行して走ります。バスの姿をちらほら見かけますが、ハイフォン行きのバスは、ハノイの複数のバスターミナルから10分間隔で頻繁運行されており、一日4往復しかない鉄道は利便性で全く勝負になりません。
ベトナム名物の車内ビデオ。なにやらベトナムの歌謡ショーらしき番組を流していますが、ボリュームが大きすぎてかなり耳障り。こういうのもベトナムでは一般的なサービスなのでしょうか。一方、番組が終わったと思ったら、次のを掛けるわけでもなく、そのまま放置。中途半端振りが目立つ「サービス」です。通路を隔てた隣の席では、車掌が居眠り。
終点ハイフォンには、ほぼ定刻に到着。
長編成の列車だけあって、大勢の乗客が吐き出されていきます。
フランスの植民地時代に建設されたハイフォン線ですが、駅舎もヨーロッパ調の雰囲気を色濃く漂わせています。
ハイフォン駅の駅正面中央部。大都市の駅の割には、比較的静かな雰囲気です。
帰路は、3時間後に折り返すロンビエン行きLP8列車。機関車、客車ともに往路の列車がそのまま折り返すだけだけですが、ハードシート車がさらに6両ほど増結され、16両 (+貨車) という長大編成になっています。
帰路はハードシートの一般車に乗車してみます。往路のソフトシートと乗り比べです。
非冷房で木製の硬い椅子のハードシート車も、2時間少々の短時間乗車であれば、それほど苦痛でもありません。「ベトナム名物」の窓の金網だけは何とかしてほしいところ。
出発時はまだ空席も目立った車内でしたが、途中駅から大量の乗客が乗り込み、車内は大混雑。日曜日夕刻の上り列車とあって、週末を実家で過ごした人たちがハノイへ帰宅するところでしょうか。ベトナムの列車は全席指定のはずでは?…というのはさておき、車内では、片側2列の座席を詰め合って3人ずつ座ったり、見知らぬ人同士でもフレンドリーなベトナム人ならではの光景が見られます。まわりの乗客にひたすらベトナム語で話しかけられたのには思わず苦笑い。
木の硬い椅子と、混雑する車内に少々疲れてきたころ、列車は20分ほど遅れて、終点のロンビエン駅に到着。
ただでさえ狭いロンビエン駅のホームに、16両分の満員の乗客が吐き出され、駅は大混雑となります。バスに対して圧倒的に不利な状況でありながら、鉄道も多くの固定客を得ているという感じです。ハイフォン線の今後の発展に期待したいところです。