海外各地の旅行先で出会った鉄道風景を紹介します。日本国内の話題も時々。

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ホーチミン ~ ファンティエット : 統一鉄道の支線を目指して

[2011年10月]

最大都市ホーチミンシティと首都ハノイとを結ぶ南北線、通称「統一鉄道」には、いくつかの支線が存在し、中には旅客列車が運行されている路線もあります。その支線のひとつ、ホーチミンシティから約150 kmにあるファンティエット (Phan Thiết) 支線へ向かいます。ファンティエットは観光地ムイネー (Mũi Né) への拠点として知られる都市です。

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予約した列車は、ホーチミンシティのサイゴン駅6時50分発のSPT2列車と、折り返しの姉妹列車SPT1。列車名のSは優等車両主体の上級列車を表し、PTはファンティエットの頭文字に由来します。夜間に運行される、上級でないファンティエット行き列車は単なるPT、ニャチャン (Nha Trang) 行き上級列車はSNTなど、分かりやすい命名法です。往復ともエアコン付きのソフトシートを頼みましたが、なぜか帰りは「AIR-CON」表記なしの少し安い座席。どんな座席なのかは後のお楽しみです。


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早起きは苦手ですが、なんとか頑張ってやってきた早朝のサイゴン駅。天気は快晴で幸先の良いスタートです。


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列車別改札が行われているベトナムの鉄道、駅に到着した発車20分前には、すでに改札口は開いています。鋏を入れるか入れないかは、その時と場合による様で、今回は切符を見せるだけです。


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青、白、赤のトリコロールの車両で統一された、ファンティエット行きSPT2列車。


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発車までの間に、列車を構成する客車を観察してみます。最後尾は、電源車と乗務員の居住施設を兼ねたCVPĐ形です。


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後ろから2両目には、食堂車のHC形も連結されています。


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二階建てソフトシート車のA2T形。メーターゲージに不釣合いな大柄な車両は、見た目的にもインパクトがあります。


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今回乗車することとなったのは、この平屋のソフトシート車。車番に付く「A」がソフトシート車を表します。容易に察しは付きますが、下級席のハードシート車の車番は「B」と付きます。このファンティエット行きSPT2列車は、上級列車らしく「A」がつくソフトシート車のみで構成されています。


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牽引するのは、米国GE製のD9E形ディーゼル機関車。ベトナム統一 (1976年) 以前の南ベトナム時代に導入された古参機です。首都ハノイとを結ぶ長距離列車には中国製のD19E形などの大型機が使われることが多いのに対し、短距離の区間列車にはこのような中小型機が使用されることが多いようです。


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共産圏の列車らしく、入り口で車掌に切符を見せて乗車します。


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列車は定刻にサイゴン駅を発車。終点ファンティエットまでの約4時間の旅の始まりです。


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市街地を抜けていく列車。スピードは極めてゆっくりで、なかなか調子が上がりません。


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集団見合式のリクライニングシートが並ぶ車内は、7~8割程度の乗車率。ベトナムの列車は基本的に全列車全席指定席で、私の席は運よく窓側でしたが、カーテンは付いておらず、差し込む強い日差しに少々参ります。


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「暑いな…」と思っていたら、車掌がやってきて、「日陰側の空席に移りなさい」といった感じに合図してくれます。言葉も通じない外国人に随分親切だなと思いつつ、お言葉に甘えて (?) 席を移動。もっとも、この後すぐに空が曇ってきて、席の移動もあまり意味がなくなってしまいました。


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全線単線のベトナム鉄道には「時刻表に載っていない駅」が無数にあり、列車行き違いや追い越しのための信号場として機能しています。当然、乗客の利用もありませんが、それぞれに立派な駅舎とプラットホームがあり、駅員も配置されています。列車はそれらの駅を次々に通過していきますが、どの駅でも駅員がしっかりと安全確認を行っています。「昔の列車はもっとたくさんの駅に停まっていた」との情報もあり、これらの駅にも旅客営業をしていた時代があったのかもしれません。


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そういった「時刻表に載っていない駅」のひとつで、対向列車の行き違いのため運転停車。朝方は快晴だった天気ですが、この頃にはだんだんと雨模様に。


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サイゴン近郊ではのろのろ運転が続いていましたが、人影もまばらな地域では、結構スピードを出して快調に飛ばします。


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サイゴンから4時間弱、最後の途中停車駅、ムオンマン (Mương Mán) に到着。前述のように車掌の勧めで席を移動したものの、「途中から誰か乗ってくるかな」と思っていたのですが、実際には途中駅の利用客はほとんど無く、心配は無用だった模様です。車掌も承知の上で移動を勧めてくれたのでしょう。なお、このムオンマン駅が、南北線 (統一鉄道) 本線と分かれる分岐駅で、ここから列車はいよいよファンティエットへ向かう支線へと入っていきます。


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支線を走る列車。雨足はだんだんと強くなります。この頃タイを初めとした東南アジア地域を襲っている豪雨の影響か、あるいは単に普段からなのかも知れませんが、車窓には水浸しの風景が続きます。


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ムオンマンから支線を走り、20分ほどで終点ファンティエットに到着。時刻表からは約40分ほど遅れての到着です。真っ先に降りた私が駅舎に入った直後、雨は突然滝のように強くなり、大勢の乗客が列車に降車に躊躇せざるを得ない状態となります。駅舎から遠い車両の乗客も、なるべく車内を伝って駅舎の近くまで来て、意を決して降りてきます。


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駅舎内に掲示されているこちらの絵は、新しいファンティエット駅駅舎の完成予想図。この新駅は、現駅とは別の場所、支線の途中に建設中のもので、列車内からもその姿を見ることができます。見た感じでは、もうほぼ完成間近といった様子。市中心部からはかなり離れることとなりますが、一日2往復しか列車がこないこの駅で、わざわざお金を掛けて新駅を建設する必要性は不明です。


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間一髪であまり濡れずに済んだのは良かったものの、外は豪雨で駅舎から一歩も出られず。駅前には多くのタクシーが客待ちをしていますが、私の場合は何の目的もないまま来てしまったので、タクシーに乗ったところで告げる行き先も無く、仕方なく駅舎内で雨が止むのを待ちます。


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幸い、雨はすぐ小降りになりましたが、雨足がかなり強かったおかげで駅前の道は完全に冠水。結局駅から出られません。


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なんとか水も引き始めたころ、ようやく駅を離れて近くの店で食事を済ませると、今回のファンティエット訪問はこれでおしまい。結局、行きの列車の遅れと豪雨の影響で出歩く時間がほとんど無くなり、14:40発のSPT1列車で再びサイゴンにとんぼ返りです。


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帰りの車両は、二階建てのソフトシート車。階上の窓際席で、これはなかなかツイている、と思ったのですが…。


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この車両の居住性は思いのほか不快。二階建てで車内が狭いことは予想してましたが、シートピッチが狭い一方で、リクライニング角度はかなり深く、前席の人が背もたれを思いっきり倒すと、後ろの席では身動きが取れません。背もたれの高さも不十分で、大柄の私が座席に深く座ると、頭がはみ出して首が疲れ、かといって浅めにだらしなく座ると、前の席に膝があたります。荷棚も小さすぎて使い物にならず、大きな荷物はみんな足元へ。とにかく窮屈極まりない車内です。


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往路と同じエアコン付きのソフトシート車ではありましたが、値段が安かったのはそういう訳だったのか、などと妙に納得しつつ、早くサイゴンに着いてくれと願いながらの辛い旅となりました。しかし、そんな時に限って列車は1時間以上も遅れます。どうやら、ハノイ発着の長距離列車の定時運行が優先されているようで、行き違いの為の運転停車でどんどん遅れが拡大していきます。


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結局、列車は約1時間20分遅れて、夜の8時にようやく終点サイゴンに到着。狭い空間から開放されたことに安堵しますが、ホームに佇む列車を見ていると、すぐに熱さは喉元を過ぎてしまい、次の旅の計画が頭の中で動き始めます。


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