元特急用の日本製普通気動車・DR2700形
[2010年5月]
DR2700形気動車は、「自強号」登場前のかつての特急列車「光華号」用として製造された、日本製の気動車です。ステンレス無塗装の外観から、台湾の鉄道ファンには「白鐵仔 (白鐵はステンレスの意味)」と呼ばれています。冷房を搭載していなかったこともあり、「光華号」廃止後は一線を退き、今は東部幹線の普快車 (非冷房の普通列車) として活躍を続けています。しかし、東部幹線も現在は電化工事が進行中で、この車両も、活躍の場を追われる日が近づいています。
台東駅。南廻線の開業に伴い、市中心部から郊外に移設されています。DR2700形の旅はここから始まります。
発車を待つDR2700形・花蓮行き普快車564次。DR2725とDR2705の2両編成です。近年まで前面が警戒色の黄色に塗られていましたが、最近は、登場時の銀色一色に徐々に戻されています。
米国バッド社からライセンスを受けた、コルゲート処理が施されたステンレス車体が特徴的です。この車両、元特急車ということもあり、乗降口は後位側の1箇所のみ。普通列車用としてはいささか心許ない気がします。
早速車内に乗り込みます。1両目の車両は、新製時の回転クロスシートがそのまま使われています。客室中央の円形の門は、エンジン排気を屋根上に導くダクトが通っている部分で、台湾の日本製気動車の特徴の一つになっています。
2両目の車両では、新型近郊気動車・DR1000形をロングシート化した際に発生した余剰品を用いて、リクライニングシートへの換装が行われています。居住性はこちらのほうが上なのでしょうが、今回はもちろん、オリジナルを尊重して、非リクライニング座席の1両目に乗車します。
先頭部の様子。半室の運転席の隣には、前面展望が拝める特等席があります。一応、この席は車掌が使う席になっているようですが、一般の乗客が使っても特に問題がなさそうという話なので、何か言われたら席を移動することにして、私もこの席に陣取ります。
列車は、わずか5人程度の乗客を乗せ、花蓮に向けて発車します。
前面展望を楽しんでいたのもつかの間、次の駅に着く前に天候は悪化し、大雨になってしまいました。幸い、風がないので側窓から雨は降り込んではきませんが、せっかくの前面展望が台無しです。
列車は、台湾の田園風景の中を快調に走ります。しかし、どんよりした空模様が恨めしくもあります。
開け放した窓ではなく、通路側からなにやら水しぶきが飛んでくると思ったら、貫通扉の隙間から大浸水が発生。運転席の貫通扉から雨漏りというのは、日本の国鉄型車両でも聞く話ですが、それが客室で起こるというのは一体どうなんでしょう。だからこの席が車掌専用だったのか? と穿った見方もできます。とはいえ、せっかくゲットした前面展望席、これしきのことで席を移る気はありません。
幸い雨は次第に上がり、ほぼ中間地点の駅、關山に到着。ここでは反対方向のDR2700形普快車と行き違います。あちらの編成では、片方だけですが前面の警戒色が残っています。また、この駅から多くの通学客も乗車し、静かだった車内がにわかに賑やかになります。
雨は上がりましたが、前面の窓は塗れたままで、展望は今ひとつ。まあ、良い席に座れただけで良しとして、あまり贅沢は言わないことにしましょう。
日没が迫ってきます。車窓を楽しめるのもそろそろ終わりです。
台東から約2時間で、終点・玉里に到着。
玉里は、DR2700形使用普快車の始終着駅となっており、側線には、一日の仕事を終えた、複数のDR2700形が身を休めています。時刻は夜の7時。既に日は暮れてしまいましたが、今夜の宿へ向かうため、この日の旅はもう少し続きます。