台湾に残る日本製の旧型客車
[2010年5月]
日本製の旧型客車を使用した普快車 (冷房無しの普通列車) が、今も台湾東部で細々と走っています。昔懐かしい普通客車列車の雰囲気を味わえるとあって、台湾のみならず日本の鉄道ファンにも人気がある列車ですが、まもなく廃止されるという話もあり、無くなってしまう前に乗っておくことにします。
南廻線の起点、枋寮駅。列車の出発まで時間があったので、駅前散策して時間をつぶします。行李房 (手荷物一時預り所) に荷物を預けようとしたら、観光地でもないこのような駅では利用する人があまりいないのか、「お金? 別にいいよ」といったそぶりで無料で荷物を預ってもらえました。
自動改札化が進んだ西部幹線の駅と異なり、台湾東部・南部では、まだほとんどの駅が有人改札です。そのため「列車別改札」が今も行われており、目当ての普快車がすでに入線しているにもかかわらず、駅の外でお預けを食らっています。
改札が開き、いよいよご対面。台東行き・普快車355次です。台湾で「藍皮車」と呼ばれる青い車体もあいまって、外見的にもかつての日本の旧客普通列車を彷彿とさせます。
牽引機は、アメリカ製ディーゼル機関車R100形。
機関車の次位には、なぜか「莒光号」用の客車が1両だけ連結されています。おそらく回送でしょうが、締切扱いで乗車不可。もっとも仮に乗車できたとしても、この列車には電源車がないため冷房が使用できず、窓も開かないこの車両に乗っても快適とは言い難い状態ではあります。
この日の編成は、前からSPK32717、TP32264、SPK32734の3両編成。1両目と3両目が日本製の客車、SPK32700形です。SPK32700形は、それまで製造されていた日本製の平快客車 (二等客車) の最終増備グループで、1970年に近畿車輛、富士重工、新潟鐵工であわせて100両が製造されました。
SPK32700形の車内。乗客の姿はまばらです。この車両は、日本の特急形客車スハ44形をベースに設計されたと言われており、内装もよく似ています。
SPK32700形の回転クロスシート。シートはビニール張りですが、かつては「対号特快 (座席指定の優等列車)」に使用されただけあって、居住性はなかなかのものです。
真ん中の車両は、インド製のTP32200形客車。両開きの自動扉を装備した普通客車 (三等客車) で、1971年製です。それにしても、編成中に1両だけ自動扉の車両を連結するのは、少し無意味な気がします。もちろん、車掌はこの車両のためだけにドア操作を行います。
TP32200形の車内。セミクロス仕様ですが、車両中央部には、SP32700形同様の回転式のクロスシートが装備されています。
最後尾のSPK32700形客車に乗車することにします。一番後ろの貫通路には扉がなく、走行中も常に開け放された状態です。
列車は枋寮駅を発車。台東まで約2時間、旧型客車による各駅停車の旅の始まりです。非冷房車ですので、もちろん窓は全開。天気が今一つなのが気になりますが…。
枋寮を定時に発車した列車でしたが、対向列車の遅れのため、早速次の駅で待ちぼうけ。まあ、のんびり行きましょう。
枋寮~台東間の南廻線は、1980年代に着工、90年代完成の、台湾一周路線で一番最後に開業した区間です。海沿いを走るこの路線は、車窓のよさは台湾屈指。あいにく、空模様がどんよりしているのが難点ですが。
台湾最南端付近を通る区間では、線路は内陸部へ向かっていきます。山を越える路線のため、ディーゼル機関車のエンジン音が響き渡ります。残念ながら、このあたりからとうとう雨が降り始めました。ただ幸いにして横風がないため、窓を開けていても車内に雨が降りこんでくることはありません。
ホームのない信号場で対向列車の待ち合わせ。設備は無人化されておらず、駅員常駐で管理をしているようです。
南廻線は開業が新しいため、日本の公団建設路線と同じく、路線上に数多くのトンネルが存在します。景色を楽しみたい向きには難点ではありますが、このように昔の夜汽車を思わせる雰囲気も楽しめると思えば、それもまた良しといったところです。
雨は降ったりやんだりで、相変わらずの天気ですが、遠くに晴れ間が見え始めました。天候の回復を祈ります。
開業が新しい区間の割には、早々に廃止された駅や信号場の姿がちらほらと。
最後尾の開放された貫通扉からも、通り過ぎてゆく景色を楽しめます。
途中駅で、同じく旧型客車の普快車と行き違い。向こうの列車もインド製客車 (TPK32208) と日本製客車SP32576、SPK32757) の混結3両編成です。
雨はようやくあがり、少しだけですが、明るくなってきました。海の色も鮮やかさが増してきます。
途中の遅れをいつの間にか取り戻し、終点・台東には定時に到着。旧型客車の旅はここで終了です。まだまだ乗っていたい気分を残しつつ、列車を乗り継いで旅を続けます。