クアラルンプール ~ ハートヤイ : 夜行列車「スナンドゥン・ランカウイ」
[2012年8月]
クアラルンプールから、国際夜行列車「スナンドゥン・ランカウイ (Senandung Langkawi)」に乗って、タイのハートヤイ (Hat Yai) に向かいます。マレーシアとタイの国境を越える国際列車は毎日2往復あり、1往復がバンコク~バターワース間の国際特急列車、もう1往復がこの「ランカウイ」です。運行主体はそれぞれ、前者がタイ国鉄、後者がマレーシア国鉄と分かれています。バターワース行きの国際特急に比べると、この「ランカウイ」は若干注目度が低いように思われますが、そこは敢えてマイナーな方を選択してみます。
セントラル・クアラルンプール (Sentral Kuala Lumpur) 駅、通称「KLセントラル」の地下ホームに停車する、タイのハートヤイ行き国際夜行列車「スナンドゥン・ランカウイ」。列車名の「スナンドゥン」というのは、マレーシア国鉄の夜行列車に付けられる名称で、特に「寝台」や「夜行」などを指す言葉ではなく、マレーシア語で「鼻歌、ハミング」という意味だとか。日本語では「ランカウイ島の詩」という感じでしょうか。牽引機はGE製の25形ディーゼル機関車。
編成前方には1両の一等寝台を含む3両の寝台車。
続いて数両の座席車。
そして最後尾に更に1両の二等寝台車と電源車が連結されています。国境を越えてハートヤイまで行くのは、列車後部の電源車、二等寝台車、そして二等座席車の計3両のみで、残りはマレーシア国内で切り離されます。国境越えの切符を購入すると、必然的に乗車する号車が決まることになります。一等寝台車ではタイに行くことはできません。
向かい側のホームにやってきたのは、マレーシア国鉄が運行する中距離列車「エレクトリック・トレイン・サービス (ETS)」。ETSはマレーシア国鉄の近代化工事に伴って、2010年より開始された新サービスで、車両も新鋭の韓国・現代ロテム製の91系電車 (電装関係は三菱電機製) が充当されています。最高速度は140 km/h。旧態依然とした雰囲気が漂う長距離列車 (KTMインターシティ) とは対照的です。
「ランカウイ」二等寝台車の車内。レール方向に並ぶ二段寝台車は、日本の開放式A寝台車と雰囲気が似ています。乗車率は結構高めで、ほとんどの寝台が埋まっています。外国人旅行客の姿は少なく、地元のマレーシア人が多いようです。
発車時刻は21:20ですが、寝台はすでにセット済み。早速寝台に寝転んで、まどろみながら夜行列車の旅を堪能することにします。
翌朝、目が覚めると、列車は逆方向に走行中。列車が方向転換するブキッムルタジャム (Bukit Mertajam) 駅をすでに過ぎたようで、国境の駅パダンブサール (Padang Besar) はもうすぐです。同じ車両に乗っていたマレーシア人乗客は、大半がすでに下車しており、車内は空席が目立ちます。前述の通り、国境を越えてタイまで行くのは寝台車と座席車の各1両のみですが、それでも「供給過多」だったようです。
国境駅パダンブサール (タイ語ではパダンベサール) には、ほぼ定刻に到着。乗客はここで全員が一度下車し、駅舎内でパスポートコントロールを通ります。まだマレーシア国内ですが、この駅ではマレーシア出国手続きとタイの入国手続きを同時に行います。同じ国境駅であるシンガポールのウッドランズ駅 (Woodlands CIQ) と比較すると、「写真撮影禁止」などの警告も無く、雰囲気は穏やかです。これもお国柄の差でしょうか。
駅の横の道路には、自動車用の国境検問所も設けられており、多くの大型トレーラーが列を成して順番を待っています。国境に来たという雰囲気満載です。
乗ってきた客車は、一度車庫に回送された後、国境を越える3両のみが再びプラットホームに戻ってきます。特に寝台を解体するわけでもなく、車内の様子は回送前と特段変わりは見られません。流石に国境を越えるというだけあって、車内点検でもしていたのかもしれません。車内に入って発車を待ちます。
パダンブサールまでは順調だった旅ですが、対向のバターワース行き国際特急が大幅に遅れていた影響で、パダンブサール発は2時間遅れ。国際特急を牽いてきたタイ国鉄の機関車が、今度はこの「ランカウイ」を牽引してハートヤイに向かいます。パダンブサールからハートヤイまではノンストップ。国際列車の旅もあと1時間です。
終点のハートヤイ分岐駅には、そのまま2時間遅れで到着。低床式のプラットホームや多く物売りの姿など、雰囲気の違いが国境を越えたことを実感させてくれます。
パダンブサールから一駅間だけを牽いてきた、タイ国鉄のGEA型ディーゼル機関車。早速切り離し。
パダンブサールの駅で、なにやら何度も連結作業をしているなと思っていたら、知らぬ間に列車の後ろには長大な貨車の列。いつの間にか「国際混合列車」になっていたようです。
ほとんど空荷の貨車の列がホームの渡り通路をふさいでしまったため、乗客は貨車を跨いで出口に向かうという荒業をこなします。実は地下通路もあるのですが、駅員が「この貨車を越えて行け」というしぐさをするので、仕方なく、いや貴重な機会にシメシメと思いつつ、私も貨車を越えて出口に向かいます。
ハートヤイから先、更に寝台列車に乗り継いでそのままバンコクへ向かうこともできますが、この日はハートヤイの少し北にあるナコーンシータマラート (Nakhon Si Thammarat) まで行って、そこで一休みすることにします。乗り継ぐ列車がやってくるまでの間、駅前を少し散策していると、バスの客引きが「どこまで行くんだ? ナコーンシータマラート? オー、列車はもうないよ!」と、定番の台詞で言い寄ってきます。