新タンジェ港のフェリーターミナル行き列車
[2017年5月]
新タンジェ港、またはタンジェ・メッド (Tanger Med) 港は、2007年に開港したアフリカ大陸最大級の巨大港湾です。タンジェ市街地から東へ約40 kmに建設され、貨物だけではなく、ヨーロッパ行きカーフェリーなども大半がこの港からの発着に切り替えられています。タンジェ中心部からタンジェ・メッド港まで伸びる鉄道路線は2009年に貨物線として開業し、2013年からは旅客営業も始められました。この新路線を走る列車に乗り、新タンジェ港を目指します。
タンジェ市街地にある、タンジェ・ヴィル (Tanger Ville) 駅から乗車します。タンジェ・ヴィル駅は建設中の高速鉄道の起点ともなる予定で、現在も駅施設内のところどころで工事が行われています。
タンジェ・メッド港 (Port Tanger Mediterranee) 行きは一番右端に停車中の列車で、7:15発です。写真中央は7:25発のカサブランカのカサ・ヴォワイヤジュール (Casa Voyageurs) 行き、一番左端はタンジェに到着したばかりのシディ・カセム (Sidi Kacem) 発の列車です。タンジェ・メッド港行きはよっぽど乗る人が少ないようで、一番右端のホームに行こうとすると、「カサブランカ行きはこっちだよ」と他の乗客が声を掛けてきます。
シディ・カセムからの列車を牽引してきたのは、フランス・アルストム製の「プリマII (Prima II)」シリーズの新鋭機E-1400型電気機関車。すでに20両以上が投入されモロッコの主力機となっていますが、残念ながら今回の旅では本形式が牽引する列車には当たりませんでした。
タンジェ・メッド港行き列車は、ゲンコツスタイルのE-1300型電気機関車の牽引。客車は二等車1両、電源車1両だけという超ミニ編成です。当初は一日4往復の列車が設定されていたようですが、利用率低調で本数が減らされ、現在のタンジェ・メッド港行き列車は7:15発のこの一本だけ。フェリー利用者には利便性の良いバスの人気が高く、鉄道を利用するのは少数派。この列車も乗客は数人しかおらず、1両しかない客車でもガラガラです。
列車は定時にタンジェ・ヴィル駅を発車。タンジェの街並みを遠目に見ながら、列車はゆっくりとした速度で走ります。終点までの所要時間はちょうど1時間です。
車窓から見えるタンジェの車両基地には、多くの高速列車が搬入されています。フランスから導入された二階建てのTGVデュプレックス型車両で、赤と緑のラインはモロッコの国旗の色にちなんでいます。高速鉄道の開業時期は当初計画より遅れていますが、今のところ2018年には運行が開始される予定です。
列車はタンジェ・モロラ (Tanger Morora) 駅を過ぎたところで本線と別れ、タンジェ・メッド港行きの新線区間に入っていきます。朝日が差す中、列車は市街地からだんだん離れていきます。
途中区間はけっこう起伏に富んでいます。1時間ほどの旅とは言え、意外と変化にとんだ車窓が楽しめます。
新線区間の途中駅は2駅。一日わずか1本の列車では駅の利用者もほとんどいませんが、駅施設は真新しくて規模も大きく、駅員も配置されています。駅員は交換設備の管理要員も兼ねていると思われますが、少々設備の過剰感が拭えない印象です。
海が見えてきました。ジブラルタル海峡です。遠くに見える陸地はスペインです。
列車は終点のタンジェ・メッド港駅に定刻に到着。駅の真上がフェリーターミナルとなっており、利用客の利便性が考慮された機能的な設計となっています。しかし如何せん鉄道利用客が少なく、せっかくの設備も宝の持ち腐れです。この駅発の折り返し列車は11:00発で、やはり一日一本のみ。
ここから国際フェリーに乗船して、スペインのアルヘシラス (Algeciras) へ渡ります。
フェリー船上から貨物列車が見えます。タンジェ・メッド港行き路線が建設された主目的は貨物輸送であるため、旅客利用が極低調でも路線の建設自体が無駄だったという話でもないのですが、願わくばもう少し鉄道利用客も増えてほしいところです。現在の状況では、残り一往復の旅客列車もいつまで持つことやら…という感じです。
フェリーは定刻から30分ほど遅れてタンジェ・メッドを出港。いよいよアフリカ大陸に別れを告げます。アルヘシラスまでの所要時間は約1時間半です。