海外各地の旅行先で出会った鉄道風景を紹介します。日本国内の話題も時々。

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ベニ・アンサール ~ フェズ : 国境の街から世界遺産の迷宮都市へ

[2017年5月]

スペイン領メリリャ (Melilla) と接する、モロッコの国境の街、ベニ・アンサール (Beni Ansar)。この街まで鉄道が伸びたのは2009年と比較的最近のことです。メリリャから徒歩で国境を越えてモロッコに入り、ベニ・アンサールから世界遺産都市のフェズ (Fès) まで、列車に乗って旅をします。

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ベニ・アンサールの国境検問所 (モロッコ側)。スペイン本土から遠く離れた飛び地のメリリャでは、物資補給の大半をモロッコに頼っているため、往来を容易にすべく国境での手続きは比較的簡素になっています。国境越えはすいていれば数分で終わりますが、メリリャにフェリーが到着した直後などは非常に混み合う場合があるようです。


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国境検問所から駅までは徒歩数分と聞いていましたが、駅舎らしき建物が見当たりません。近くにいた警官っぽい人に、私が知る数少ないフランス語で「Chemin de fer? (鉄道?)」と尋ねたところ、教えてくれたのがここ。確かに門の向こうにレールはありますが、これが駅…? カサブランカからの夜行列車も発着する終着駅とは俄かに信じがたい光景です。入口の門には鎖が掛かり、人が1人通れる程度の隙間だけが開いています。


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中に入ってみれば確かにプラットホームと「ベニ・アンサール港駅 (Gare de Beni Ansar Port)」と書かれた駅名標があります。少々不安は残りますが、ここで列車を待つことにします。どうでもいいですが、少し前から見知らぬおじさんがしつこく付きまとって、スペイン語で「コーヒーおごれ」みたいなことを言いよってきます。スペイン語が分からない振りをして (実際分かりませんが) 追い払うのに一苦労です。


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しばらく経つと、列車の乗客がだんだん集まってきて、ようやくここが駅だと信じられるようになります。肝心の列車は発車時刻間際になって、推進運転で回送されてきました。


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フェズまでの区間は全て単線の非電化です。牽引機はクロアチアのTŽVグレデリ (TŽV Gredelj) 製ディーゼル機関車DH400型。製造元での形式名はNGT26CW-3wNFORCE。貨物型と旅客型があり、旅客型の最高速度は140 km/hです。


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客車は、電源車1両、二等車4両、一等車1両の6両編成。虹色の新塗色への変更が進んでいますが、電源車は後回しとされて旧色のままとなっています。この電源車はもともと二等コンパートメントとの合造車でしたが、現在はシートなどの客用設備は撤去され、客室としては使われていません。


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モロッコの列車は、一等が全席指定、二等が全席自由です。一等に乗ろうにも、駅舎すらないこの駅では一等の指定券が買えず、必然的に二等に乗車することになります。一等に乗ろうとした客が車掌に追い払われていたので、一等は車内補充券も発行していないのかもしれません。


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二等車のオープンタイプの座席。集団見合い式でシートは固定されています。二等車も全車冷房付きです。始発駅なので車内はすいています。


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二等車の座席タイプには数種類あります。こちらはボックス式に固定された車両です。


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コンパートメントタイプの二等車もあります。一等車もコンパートメントです。


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列車はベニ・アンサール港駅をほぼ定刻に出発。フェズまでの所要時間は6時間半です。


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ほどなく、隣のベニ・アンサール駅に到着。こちらは普通に立派な駅舎があります。


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車窓には荒涼とした乾燥地帯の風景が広がります。ほとんど人が住んでいないようにも見えますが、時折小さな街が現れ、列車は10分から20分置きくらいに駅に停車していきます。どこの駅にもやはり駅舎はあり、駅員もいます。なぜ始発のベニ・アンサール港駅だけ駅舎がなかったのか、やはり謎です。


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出発から約2時間、アルジェリア国境に近いウジダ (Oujda) 方面の路線が合流するタウリルト (Taourirt) に到着。モロッコの鉄道では設備の近代化が進められており、この駅も駅舎やホームが真新しく更新されています。


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この駅で列車は方向転換を行います。タウリルトでの分岐は三角線になっており、駅を経由せず方向転換なしでフェズ方面に直通することもできます。この列車は律義に駅に停車し、機回しを行います。車内はまだ乗車率に余裕があるため、日が当たらない側の空席に移動することにします。


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列車は引き続き、荒涼とした景色の中を走ります。


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フェズが近づいてくると、車窓にはだんだんと緑が増えてきます。オリーブ畑や麦畑が広がります。


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車窓右手に、コバルトブルーの巨大な湖面が広がります。イドリス一世ダム (Barrage Idriss 1er) のダム湖です。乾いた大地とのコントラストが非常に鮮やかです。列車はしばらく湖岸に沿って走ります。


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列車は時々、時刻表にも載っていない「駅」を通過します。停車する列車はなく、実質的には信号場として使われているようです。立派な駅舎もあり、以前は旅客の乗降も行われていたのかもしれません。駅員が列車通過時の安全確認を行っています。


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フェズ到着間近になると、列車はほぼ満席に。かろうじて立ち客がいない程度に席が埋まります。ところで、その汚さに定評があるというモロッコの列車のトイレ。ベニ・アンサール始発時点ではそれほど気になりませんでしたが、この頃になると、とても使おうとは思わない程度の有様になっています…。各車のトイレを見て回りましたが、どこも似たような状態です。フェズまであと少し…我慢します。


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6時半の長旅を終え、列車はフェズに定刻に到着。


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駅舎内部は巨大なホールになっています。切符売場や自動券売機の他、売店やレストラン、銀行などもあります。改札口は列車別改札のため、切符を持っていないとホームに入ることはできません。


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2009年に新しく建て直されたフェズ駅の駅舎。正面が大きなガラス張りとなり、伝統的なデザインと近代的な建築が融合したスタイルです。駅名表記は「ガール・フェス (Gare Fes)」だったり、「ガール・ド・フェス (Gare de Fes)」だったり、あまり統一されていません。


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ホームで発車を待つカサブランカのカサ・ヴォワイヤジュール (Casa Voyageurs) 行き最終列車。二等車はデッキまで人が溢れる大混雑です。列車によってはやはり一等車で確実に席を確保しておいた方が無難なようです。


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