ミニ私鉄紀州鉄道の旅と廃線跡めぐり
[2007年10月]
紀州鉄道は、和歌山県御坊市を走る全長2.7 kmの小鉄道。古くは街外れの国鉄御坊駅と市内中心部とを結ぶ御坊臨港鉄道として開業しましたが、ご多分に漏れず、モータリゼーションの波に押され廃線の危機に。そこへ「鉄道会社」のネームバリューに目を付けた不動産会社により1973年に買収にされ、紀州鉄道と名を変え現在に至っています。名義目当ての買収とはいえ、運行本数も多く路線はしっかりと維持されており、地元の重要な足として必要不可欠な存在となっているようです。
紀州鉄道の起点は、御坊駅の0番のりばから。停まっているのは古参型のキハ603。紀州鉄道には現在2両の気動車が在籍しており、主に平日は2軸レールバスのキテツ1型、休日はこのキハ603型が使われています。JR御坊駅では紀州鉄道のきっぷは売っていないため、改札口で「紀州鉄道に乗ります」と言って、きっぷを持たずに入場します。
もたついているうちに先ほどの列車は行ってしまいましたが、20分少々で戻ってきます。列車は30分に一本程度と、比較的高頻度の運行。
キハ603は天井も低く、背が高い人は少し頭をかがめて乗車します。「紀州鉄道」の文字とバス窓が印象的。
車内にはボックスシートが並びます。床はもちろん木製。時間帯にもよるのでしょうが、乗車率は比較的高く、全てのボックスに人がいる程度に利用客がいたりします。
運転台の様子。客室との間に大きな仕切りはなく、運転している様子を間近に見ることができます。
駅数も少ないため、運賃表もコンパクト。特筆すべきは運賃の価格で、初乗り120円、全区間でも180円と、距離が短いとはいえ、比較的安価に設定されています。「採算度外視」の成せる業でしょうが、利用客には嬉しいことです。
列車は御坊駅を定刻に発車。雑草にまみれる線路をゆっくりとした速度で走っていきます。
程なく最初の駅、学門に到着。早速下車する乗客も。
次の駅は、紀州鉄道の中心駅となる紀伊御坊。有人駅で、乗客の乗降ももっとも多いようです。写真左が乗降用ホームですが、右側にもプラットホーム跡らしきものが見えます。写真を見る限り、かつては対向式の2面2線だったのを、左側の1線を潰し、その上にプラットホームを伸ばして1線のみとしたようです。この駅には帰りに訪問することにして、とりあえず終点まで乗り通します。
3つ目の駅、市役所前。次の駅・西御坊まではあと300mです。
わずか8分の旅は終わり、終点・西御坊に到着。
西御坊駅構内の様子。天井がかなり低いです。出札口もありますが、駅員がいるのは7時から11時までとのこと。事務室は、列車の折返しまでの運転手の休憩所ともなっているようです。
駅舎内には利用客のものと思われる自転車が。全区間2.7 kmでは、そのまま自転車に乗っていったほうが早いのでは、と思ってしまいますが…。
細い通りに面した西御坊駅の駅舎とキハ603。車両に負けないくらい、小ぶりで古風な駅舎です。昭和時代を感じさせる光景です。
西御坊に停車中のキハ603。線路は柵で仕切られていますが、昔は更に線路が伸びていました。現在は西御坊で終点となっている紀州鉄道ですが、1989年までは一つ先の日高川まで路線が延びていました。廃線となった区間は0.7 km、歩いても大した距離ではありません。その廃線跡を巡ってみることにします。
一旦路線が廃止となると、線路等の設備は廃止後まもなく撤去されるのが常ですが、紀州鉄道の場合は、道路と交差する踏切部分が埋められている他は、線路等が柵で仕切られているくらいで、ほとんど手付かずの状態で残されています。廃止から20年近く経とうと言うのに、この状態は貴重であり、ある意味驚異的でもあります。
踏切の跡らしき部分。当時の柵がそのままとなっています。
日高川駅跡近くの踏切。なんと警報機までもが撤去されずに残っています。最上部の×印が崩れかかっているのが哀愁を誘います
その踏切を、西御坊方面に向かって見たところ。写真では見にくいですが、朽ち果てかけた腕木式信号の残骸も残っています。
終点の日高川駅跡。ポイントなどもそのまま。乗降用に最後まで使われていたのは一番左の線路のようです。
日高川駅のプラットホーム跡。隣接して駅舎があったようですが、さすがに撤去されています。駅舎は、現役時代から廃屋同然の古い建物だったとのことです。
日高川駅構内の小さな水路にかかる橋。渡るのはさすがに危険。
廃線跡めぐりを終えて、再び西御坊駅に帰着。御坊よりまたキハ603が戻ってきます。16時以降に車両交換が行われることもあるそうですが、この日はそのままキハ603が運用についているようです。キテツ1型には会えず終い。
今度は紀伊御坊駅で下車。少なくない数の客が乗車します。良く利用されているのを見るのは、関係者でなくとも嬉しいものです。
紀伊御坊駅の端に留置されている、キハ603と同型車のキハ604。キテツ1型導入以降は使用されておらず、現在はキハ603の部品取り用となっているようです。古い車両が現役を退いていくのは寂しいですが、今でもキハ603の運行を裏で支える重要な存在です。
紀伊御坊駅には、鉄筋コンクリート製の立派な駅舎があり、駅員がきっぷや鉄道グッズを売っています。売られているきっぷは、今では貴重となった硬券。保存用に一枚余分に購入して、帰りの列車に乗り込みます。
紀州鉄道は、その特異な経緯が幸いしてか、現在でも地元の重要な足として、また趣味的にも貴重な存在としても、昔と変わらぬ姿で存在し続けています。今後も末永く活躍してもらいたいものです。