海外各地の旅行先で出会った鉄道風景を紹介します。日本国内の話題も時々。

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クリチバの観光列車「セーハ・ヴェルジ・エクスプレス」

[2012年10月]

今回やってきたのは、サンパウロの南西約400 kmにある街、クリチバ (Curitiba)。この街からは、ブラジルでも有名な観光列車「セーハ・ヴェルジ・エクスプレス (Serra Verde Express)」が運行されています。「セーハ・ヴェルジ」は直訳すると「緑の山」。風光明媚な山岳路線を走る観光列車として、高い人気を誇っています。

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クリチバ中心部に外れあるクリチバ駅。少々わかりにくい写真ですが、画面中央に左右に伸びている細長い建物が駅舎で、右手には小さな車庫があります。駅舎の手前には大きなバスターミナルがあります。長距離バスが交通の主役となってしまったブラジルにおいては、駅よりもバスターミナルのほうが主役となっています。この日は残念ながらあいにくの雨模様です。


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バスターミナルの裏手にある小さな入り口から駅に入ります。冒頭に書いたとおり、この列車は人気が高く、小さな駅舎内は大混雑となっています。特に休日に乗車する場合など、できれば事前予約していきたいところですが、電話予約と料金の事前振込みが必要なようで、残念ながら外国人にはかなり敷居が高いのが実情。私の場合、厚かましくも現地のブラジル人の好意に甘えさせて頂きました。


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「セーハ・ヴェルジ・エクスプレス」にはいくつかの種類があり、この日乗車するのは、クリチバ発モヘチス (Morretes) 行きの客車列車。毎日一往復が運行されています。牽引機は貨物鉄道会社ALL (アメリカ・ラチーナ・ロジスチカ América Latina Logística) 所有のディーゼル機関車の重連。軌間はメーターゲージです。


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客車は荷物車を含めた約20両の長大編成。座席クラスは3つあり、プラスチック製シート・サービスなしの「エコノミコ (Econômico)」(自由席)、転換シート・ポルトガル語ガイド・軽食付きの「トゥリスチコ (Turístico)」、同じく転換シートで二か国語ガイド (ポルトガル語と英語)・ちょっと良い軽食つきの「エシェクチヴォ (Executivo)」(いずれも指定席) という構成です。「エコノミコ」は1両のみの連結で、残りは「トゥリスチコ」と「エシェクチヴォ」用の転換シート車両です。


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車両は、普通鋼製やステンレス製など、雑多な外観のものがバラバラに混結されています。ただし、横開き式窓に転換シート、エアコンなしという基本的な構造は共通しています。恐らくブラジルで鉄道がまだ旅客輸送の主役として活躍していたころに使用されていた車両だと思われます。


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転換シートが並ぶ「トゥリスチコ」の車内。列車はほぼ満員ですが、知らないグループ同士で相席にならないように配慮されているのか、1人旅の私の隣は空席です。1人で一座席を占有できます。


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クリチバを発車した列車は、しばらくは平凡な景色の中を走っていきます。車内では、観光バスのようなガイドが始まります。


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この路線は全線単線ですが、貨物列車の運行頻度が高く、結構頻繁に列車の行き違いが行われます。牽引機はこの列車の物と同型のディーゼル機関車が多く、山岳区間の列車らしく3重連や4重連を多く見かけます。


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列車がトンネルに入ると、乗客は口々に窓から奇声を発して声の反響を楽しむという、遊園地のアトラクションのような雰囲気に。ブラジル人にとって鉄道旅行というものが相当に珍しいものだというのは良く分かります。


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トンネルを抜けると、列車はいよいよ山岳地帯へ。ブラジル内陸の高地から海岸方向へ向かって、「セーハ・ド・マール (Serra do Mar、海岸山脈)」と呼ばれる斜面をひたすら下っていきます。周囲には「マタ・アトランチカ (Mata Atlântica、大西洋岸森林)」と呼ばれる森林地帯が広がっています。


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山岳区間の中でも、貨物列車とはしばしば行き違います。急勾配区間で、貨物列車が停車と起動を繰り返すのもなかなか大変な話で、貨物列車に3重連や4重連が多いのも頷けます。


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渓谷が切り立って来たあたり、いよいよ列車は車窓のハイライト区間に差し掛かっていきます。


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あいにくの空模様ではありましたが、運よく晴れ間も出て、なかなかに美しい車窓になってきました。眼下に広がる雲海も、雰囲気を盛り立ててくれます。


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とはいえ、列車が斜面を下り、標高が下がっていくにつれ、案の定、車窓は深い霧の中へ。お楽しみ車窓は残念ながらこれで終了のようです。


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クリチバを発って2時間ほど、列車は唯一の途中停車駅であるマルンビ (Marumbi) に到着。こんな山の中になぜ駅が? とも思いますが、かつて鉄道員の街でも存在していたのでしょうか。今は海岸山脈のトレッキングの中継地点にもなっているようで、トレッカーの姿も見られますが、列車を利用するというわけでもなさそうで、乗客の乗り降りはありません。


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何も無い山奥の駅で、列車はしばしの休息。


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マルンビを発って、再び列車は海岸山脈を下っていきます。


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霧が晴れ、あたりが開けてくると、モヘチスはもうすぐ。


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クリチバを発って3時間半ほど、終点モヘチスには、およそ30分遅れで到着です。駅のホームが短いので、列車は少しずつ位置をずらせながら、数両ずつ乗客の降車を行っていきます。


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無機質なモヘチス駅の駅舎。この駅舎も貨物鉄道会社ALLの所有のようです。なお、線路自体はモヘチスで終点というわけではなく、まだ先へ海岸方面に向かって伸びています。日曜日に限り、この先のパラナグア (Paranaguá) まで走る観光列車も運行されています。


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列車がクリチバへ向けて折り返すまで3時間少々、乗客が街中へ散策に出かけている間、列車は機関車の付け替えを行います。


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程なくやって来た単行のディーゼル車。同じくクリチバ発の、もうひとつの観光列車「リトリーナ (Litorina)」です。ソファーやバーが併設された高級仕様の車両で、料金は「トゥリスチコ」の3倍以上もします。贅沢な列車旅がお好みの方は是非こちらへ。土休日のみの運行です。


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「リトリーナ」の車両は、おなじみ米国バッド社製のステンレス車体のディーゼル車。メーターゲージにあわせてブレーキディスクを外側に持ってくるという珍しい台車構造をしています。なお、「リトリーナ」車両には、写真の高級仕様車の他に普通仕様の車両もあり、前述の日曜のみ運行されるパラナグア行き観光列車に使用されています。


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モヘチスは規模は小さいながら、街並みも遠景も非常に美しい街です。昼食に名物料理「バヘアード (Barreado)」を食べたりしつつ、折り返し列車までのひと時、散策を楽しみます。


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駅へ戻ると、先ほどの「リトリーナ」車両が客車列車の最後尾に連結されています。どうやら帰路は回送となり、乗客はバスで帰るようです。実際、ここモヘチスへも列車よりバスのほうが遥かに便利なのが実情で、片道のみ鉄道を楽しむというスタイルも普通のようです。ちなみに、鉄道料金は帰路の方が若干安いので、少しでも安く上げたい人は、往路バス・帰路鉄道という組み合わせも可能です。


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帰りも同じ列車に乗ってクリチバへ引き返し。意外にもほとんどの客が帰路も列車を選択しているようです。


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だいぶ日も傾いたころ、列車は出発地のクリチバへ到着。モヘチス滞在を含めて約10時間の、そこそこな長旅でした。


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