サンパウロ周辺の保存駅舎
[2010年12月] (2012年6月訪問分追記)
ブラジルにおける旅客列車の大幅な縮小は、当然ながら多くの廃駅も生みました。しかしながら非常に数多くの駅舎が解体されることなく現存しており、一部では保存して観光資源として活用しようという動きも見られます。今回はサンパウロ周辺の保存駅舎のほんの一部を、おまけの写真とともに紹介します。
一つ目は、サンパウロの北西約50 kmの位置にある、人口15万人の地方都市、イトゥー (Itu) の駅。イトゥーは、ポルトガル人が入植初期に作った歴史ある街で、2010年は街の建設からちょうど400周年にあたります。
イトゥー駅のプラットホーム。比較的きれいに原型をとどめています。
現在は線路が完全に剥がされ、駅周辺も街並みの再整備が進められた結果、どこを線路が通っていたかを判別することすら困難な状況です。プラットホームがなければ誰もここが駅だとは判らないでしょう。
こちらはイトゥーから北東へ約5 kmにある、人口約10万人の街、サウト (Salto) の駅。イトゥーと同様、線路はすでになくなっています。
イトゥーとサウトとの間で、観光用として鉄道を復活させようという動きがあります。「トレン・ヘプブリカーノ (Trem Republicano)」とありますが、ブラジルに共和制が敷かれた1889年ころの鉄道を再現しようということでしょうか。しかし、前述の通り両駅跡周辺の線路は既に完全に撤去されており、復活には線路の再敷設が必要です。本当にそこまでするのか、という気もしますが、運転手の養成は始められているとの話もあります。
(2012年6月追記) 上記の観光用鉄道ですが、一応ゆっくりながら線路の敷設も行われてようで、旧サウト駅近くでも線路を見ることができます。しかしながら、駅自体の整備は全く手付かずといった感じで、現地のブラジル人曰く「開業は当分先だろうね」とのこと。しかも最近、鉄道推進派の市長が選挙で落選してしまったらしく、計画の中止すら囁かれている事態になっています。
旧サウト駅周辺の線路は直線化され、現在は旧サウト駅を通らないルートとなっています。線路は1600 mmと1000 mmの三線軌条です。
ところ変わって、こちらはサンパウロから北へ約100 km、サンパウロ州のへりにある小さな町、アグアス・ダ・プラタ (Águas da Prata) の駅。旅客列車はもちろん運行されていませんが、貨物線としては未だ現役で、レールにつやがあります。
「アグア」とは、ポルトガル語で「水」という意味。この町は良質な水源が有名で、「プラタ」の名を冠したミネラルウォーターは、ブラジルのコンビニ等でよく見かけます。少し値段は高めですが、人気があるようです。
駅舎はこの町の観光資源として開放されており、自由に立ち入ることができます。出札口らしき窓口跡もあります。
おそらくこれは蒸気機関車の給水塔。どこからか水が漏れており、常に水しぶきがあがっています。
駅の隣にある踏切。看板にある「パリ・オリ・エスクーチ (Pare, Olhe, Escute)」とは、日本語で「とまれ・見よ・聞け」という意味。ブラジルの踏切にある決まり文句とのことで、日本で言うところの「とまれみよ」みたいなもの。
最後に紹介するのは、アグアス・ダ・プラタから更に北に進み、隣のミナス・ジェライス州 (Minas Gerais) に入ったところにある観光都市、ポソス・ジ・カウダス (Poços de Caldas) の駅。
線路は残っていますが、現在は使われておらず、アスファルトで埋められています。何か造っているようですが。
駅の隣は、小さな公園になっており、敷地内に何本かの線路が走っています。転車台も残されてます。
このポソス・ジ・カウダス、人口約15万人の地方都市ですが、なんと市内にモノレールが走っていました。1990年に開業しましたが、利用客数の極端な低迷により、あっという間に平日の運行を停止。その後しばらくは、観光用として週末のみの運行が続けられました。その後、軌道の構造に問題があることも発覚して、現在は全面的に運行が差し止められています。
モノレールの構造物はほとんど撤去されずにそのまま放置されています。軌道を良く見ると、コンクリート上に鉄製のレールがあり、ロッキード方式に似た仕組みだったのではと思われます。全区間単線ですが、橋脚は複線対応の構造となっており、将来的な乗客増まで見込んでいたようです。
わかりにくい写真ですが、こちらが駅部分。駅間距離は比較的短く、「都市交通」を志向して建設されたようにも見受けられます。しかし、この都市規模で運営を成り立たせるのが困難なのは明らかであり、それでも建設が進められたのは、政治的な絡みなども影響していたのかもしれません。