ベトナム鉄道の客車
電車や気動車が走っていないベトナムでは、旅客列車は全て客車列車です。中国製が多いようで、外観的にも中国の列車に似た雰囲気ですが、他にもインド製客車や、新しい車両を中心にベトナム国産客車もあります。
2013年頃より車体塗色の統一化が進められており、全車 (旅行会社借り上げの専用塗色を含む) が青・白・赤の3色塗装 (以前は急行列車用客車に用いられていたもの) に順次塗り替えられています。
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車両番号のつけ方
冒頭のアルファベット (1~4文字) で車種を表し、次いで5桁の数字が続きます (A2T形を除く)。数字は、まず1桁目 (万の位) に車種ごとの決まった数字が入ります (後述)。2桁目 (千の位) は車体長の分類だと思われますが (長車体は「1」、短車体は「7」)、正確なところは不明です。なお、ほとんどの車両では「1」が入ります。残り3桁は車両ごとの固有番号を表します。形式を細かく分類する付番方法 (たとえば「41500番台」のような) は無いようです。
なお、かつて (少なくとも2002年頃まで) は、車種を表すアルファベットの前に、"I"とか"L"などの別の記号も付いていたようです。ただし、それらが何を表していたのかは不明です。
ほとんどの客車はメーターゲージ用ですが、ハロン線専用の客車として、わずかな数の標準軌用客車も存在しています。形式名としては両者は区別されていませんが、ベトナム鉄道の一部資料では、標準軌用客車に"R"を付けて区別している場合もあります。"R"は「広い」という意味の"Rong ゾン"に由来していると (私個人的に勝手に) 考えていますが、正確なところはわかりません。
※ここでは、各車種を"BN形" "HC形"のように呼んでいます。日本風に言えば「ナハネ形」「オシ形」などに相当し、適切な呼び方ではないのですが、単に"BN" "HC"などと言うのも呼びにくいため、便宜的に「形」をつけています。
各型式の概要
AN形 (正確には"N"は下付き文字) … ソフトベッド車。車番は「11xxx」。上級クラスの寝台車で、設備的には日本の2段式B寝台と同様です。硬い寝台の上に厚手のマットが敷かれており、これがソフトベッドという名前の由来になっています。冷房付き。
BN形 (正確には"N"は下付き文字) … ハードベッド車。車番は「21xxx」。下級クラスの寝台車で、設備的には日本の3段式B寝台と同様です。寝台に敷かれているマットが、ソフトベッド車より薄手のものになっています。一部で「6人用 (3段寝台) ソフトベッド車」と呼ばれるものがあり、その場合はソフトベッド車と同様の厚手のマットが使用されているのかもしれません (未確認)。冷房付き。
A形 … ソフトシート車。車番は「31xxx」。上級クラスの座席車で、集団見合い式のリクライニングシートが装備されています。冷房付き。
A2T形 … 二階建てソフトシート車。"2T"は二階建て (2 tang ハイ・タン) に由来します。ただし"A2T"という呼び方は単なる車両の形式名で、車番は単に"A"と表記されます。また車番の数字は、例外的に2から始まる4桁 (2xxx) となっています。通常のソフトシート車 (A形) と比較して居住性がやや劣るため、列車によっては運賃が少し低めに設定されている場合もあります。冷房付き。
B形 … ハードシート車。車番は「41xxx」。下級クラスの座席車で、木製のボックスシートが装備されています。ほとんどの車両は横4列席ですが、一部に横5列の車両もあります。また、大半は非冷房ですが、一部に冷房搭載車もあり、運賃も若干高めに設定されています。
C形 … 木製ロングシートまたは無座席車。車番は「51xxx」。一般客用の座席車として使用されることは少なく、大抵は大荷物を持った行商人専用車両か、荷物車としての扱いで連結されています。ハノイ周辺のローカル線で多く使用されていますが、南部地域では見ることができません。車齢的にかなり古いものが多く、写真のようなオープンデッキの年代物車両も存在しています。全車非冷房。
HC形 … 食堂車。"HC"は「食事」(Hàng cơm ハン・コム) の頭文字で、車番は「61xxx」。長距離の急行列車には必ず連結されています。この写真のように、窓配置等で一見して食堂車と分るものが多いですが、中にはB形 (ハードシート車) を改造したと思われる、外見的には食堂車に見えない車両も存在しています。
HL形 … 荷物車。"HL"は「荷物」(Hành lý ハイン・リー) の頭文字で、車番は「71xxx」。長距離の急行列車に連結されていることが多いようです。
CVPĐ形 … 乗務員居住区 兼 電源車。"CV PĐ"や"CV-PĐ"と表記される場合もあります。"CV"は「公務」(Công vụ コン・ヴー)、"PĐ"は「電源」(Phát điện ファット・ディエン) の頭文字です。"BV-PĐ"と表記されている車両もありますが ("BV"は「郵便業務」(Bưu vụ ブウ・ヴー) の意味)、順次"CV-PĐ"に改番が行われているようです。半室食堂車の"HC-PĐ"、半室荷物車の"HL-PĐ"という変種も一部存在します。いずれも車番は「81xxx」。なお乗務員居住区はハードベッド車と同様の設備です。冷房車が連結されている列車には必ず連結されています。
XT形 … 貨物列車用の車掌車。分類的には「貨車」なのかもしれませんが、客車っぽいので一緒に載せておきます。"XT"は「警備」(Xếp tanh セップ・タイン) の頭文字で、車番は4桁の数字。車両の性格上、旅客列車に連結されることはまずありません。形態的に、かつての一般客車を流用したものも多いと思われます。
CD形 … こちらも分類上には「貨車」とされる、客車っぽい車両。"CD"は「専用」(Chuyên dùng チュイエン・ズン) の頭文字ですが、なんの専用車なのかわかりません。貨車に混じって使われています。車番は4桁の数字。
標準軌用客車 … ハロン線の普通列車に使用されている客車で、ハードシート車、荷物客車など総勢はわずかに8両。未だに走っているのが不思議なくらいの超骨董品級の車両ばかりです。車両記号の分類方法はメーターゲージ用客車と同じです。
謎の気動車 (?) … ダナン駅併設の車両基地に留置されていた謎の車両。両運転台型の旅客用ディーゼルカーにも見えますが、遠目にしか観察することができず、詳細は不明です。かつて、一部区間でのローカル輸送用に単行ディーゼルカーが運行されていたとの情報もあり、その車両ではないかとも推察されます。