海を渡った「白いかもめ」・TEMU1000系「太魯閣号」
[2010年5月]
TEMU1000系「太魯閣 (タロコ) 号」は、台北~花蓮間の特急列車の速度およびサービスの向上のため投入された、新型の振り子式電車です。車両構造はJR九州の885系「白いかもめ・ソニック」を基本としており、885系と同じく日立製作所により開発・製造されています。2007年のデビュー以来、利用客に好評を博しており、現在は西部幹線にも運用範囲を広げています。
東部幹線の電化区間の終点である花蓮駅。太魯閣号の多くの列車が、この駅を起終点としています。この日の旅は、ここからスタートです。
と、その前に。花蓮の駅前には、車両の展示スペースがあり、台東線 (花蓮~台東間) がナローゲージだった頃に使用されていた、数々の貴重な車両が展示されている…はずだったのですが、よそでの展示用に召し上げられてしまったのか、老朽化した車体を修復中なのか、旅客車の姿が見えません。残っているのは貨車ばかり。まあ、スクラップにしてしまったということはないのでしょうが、とにかく残念。「ナローゲージの寝台車」など、展示車両は価値の高いものだったのですが。
この日は、中華民国空軍 (台湾空軍) の演習が実施されていたようで、駅の直上を、F-16戦闘機が爆音とともに次々と通過していきます。空軍基地 (花蓮空港を軍民共用で使用) が近いため、ここ花蓮では、このような風景は日常茶飯事なのかもしれません。飛行機はともかく、駅に入ることにします。
今も自動改札化が未導入で列車別改札が行われている花蓮駅の改札口を抜け、太魯閣号が待つ月台 (プラットホーム) へ。彰化行き・自強号1087次です。若干古めかしい風体の台鉄の車両たちの中にあって、純白の流麗な車体は、登場から3年を経た今も異彩を放っていると言えるでしょう。
運転席横に描かれた、誇らしげな「Taroko」のロゴ。「太魯閣号」の愛称は、花蓮の近くにある太魯閣国家公園 (国立公園) にちなんだ名で、日本語や英語でも表記・発音が容易な点も評価され採用されました。当初は、自強号とは別の、特急に相当する列車種別名とする案もあったようですが、結局、単なる愛称ということで落ち着いています。
乗降扉はプラグドア。足元のステップは扉が閉じている際は折りたたまれる可動式です。では、車内に入ります。
デッキ付近のつくりも、シンプルで近代的な雰囲気です。
客室内には、重厚なリクライニングシートが並びます。「太魯閣号」は、台湾新幹線開業後の台鉄を背負って立つ、新しい看板列車として位置づけられており、客室設備の質的向上にも力が入れられています。E1000系までとは一線を画している感じです。
しかし、私の席は端っこで窓が小さいハズレ席…。海側の席に当たっただけ良しとしましょう。
それでは出発進行。車庫へ回送されていくE1000系と併走しながら、花蓮を後にします。
この日は、すばらしい天候に恵まれました。
ところどころ、単線・非電化時代の遺構が車窓に見えます。花蓮までの複線電化が完成したのは2003年、比較的最近の話です。
空と海の青さが眩しい車窓。列車は海岸沿いの風光明媚な区間を快調に飛ばします。
花蓮から50分経って、ようやく最初の停車駅・羅東に到着。この先は海を離れ、台北近くまでは内陸の山岳地帯を走ります。
山岳地帯を抜けると、列車は台北都市圏へ。車窓に車両基地が見えてきます。七堵調車場です。
花蓮から2時間弱、七堵に到着。この駅は、車両基地を擁することから、西部幹線を走る多くの列車の起終点となっています。私も、ここを起点とする列車に乗り換えるため、「太魯閣号」を下車することにします。