パシュカニ ~ ヴァドゥル=シレト : 急行列車でウクライナへ
[2019年5月]
ルーマニアから急行列車「インターレジオ」に乗って、国境を越えてウクライナへ入ります。
ルーマニア東北部の小さな街、パシュカニ (Paşcani)。首都ブカレストからほぼ真北に伸びる幹線と、東部にあるルーマニア第二の都市、ヤシ (Iași) を経由してモルドバへと至る路線とが合流する、交通の要衝です。この駅から乗車します。
パシュカニからは、昼間の時間帯でも1時間に3本前後の列車が発着しています。今回乗車するのは、ウクライナのヴァドゥル=シレト (Vadul-Siret) 行きのIR 380列車です。ルーマニア国内ではヴァドゥ=シレトゥルイ (Vadu Siretului) と表記されることが多いようです。
ヤシ方面からのクルージュ=ナポカ (Cluj-Napoca) 行きIR 1831列車が、15分ほど遅れて到着。これから乗車するIR 380列車は時刻表上はこの列車の9分後に来る予定で、すでに到着時刻を過ぎています。時刻表の順番通り、IR 380列車はこの列車の後にやってくることになるようです。
この駅から北部の主要都市、スチャヴァ (Suceava) までの区間は、約10分の間隔でIR 1831列車とIR 380列車の2本のインターレジオが続行運転することになります。
IR 380列車は、約20分遅れで到着。国際列車ながら二等客車2両のみの寂しい編成です。牽引機は先のIR 1831列車ともども、ルーマニア地場のエレクトロプテレ (Electroputere) 社製の40型電気機関車。
先行したIR 1831列車は結構な乗客がいましたが、こちらの列車はやや閑散としています。1両でも十分すぎる程度の乗客数です。
列車は首都のブカレストを早朝に出発し、全行程を約9時間半かけて走ります。ここパシュカニからは終点まで約4時間半です。
車内はコンパートメント式と開放式が混在しています。ただし開放式も通路が片側に寄せられた独特な配置で、コンパートメント式とあまり変わりません。向かい合わせの座席は位置をずらして設置され、客同士で足が当たらないよう配慮されています。1区画の座席数は5席と、二等車ながら贅沢な空間の使い方です。
もう1両の二等車も、また独特なレイアウトを採用しています。
列車は一路北を目指して走ります。ガラガラの車内でのんびりと過ごします。
40分少々で、ルーマニア国内では最後の主要駅となるスチャヴァに到着。新たに乗り込む人は見当たらず、車内はますます寂しくなります。
更にひと駅進み、スチャヴァ北駅 (スチャヴァ・ノルド Suceava Nord) に到着。ここでクルージュ=ナポカ方面の路線と別れ、いよいよウクライナへ向かう支線へ入っていきます (正確には分岐点はもう一つ隣の駅)。ここから非電化区間に入るため、機関車を交換します。
スチャヴァ北駅の駅舎は、19世紀後半のオーストラリア=ハンガリー帝国時代に建てられたという歴史あるもの。ただし長らく適切なメンテナンスがされず老朽化が進んでしまったため、現在修復作業が行われています。今は一部区画を除いて中に入ることはできません。
ここからの牽引機は60型ディーゼル機関車です。ルーマニア地場のエレクトロプテレ社がドイツやスイスの技術を導入して製造した形式です。
国境方面へ向かう客は、私を入れてわずか3人。うち1人は鉄道会社の関係者のようで、実質的には乗客は私と初老の男性の2人だけです。この様子だとひとりも乗客がいない日も珍しくなさそうです。
ルーマニア側最後の駅、ヴィクシャニ (Vicșani)。ここで出国審査が行われます。ルーマニアの他の国境駅と同様、係官が乗客のパスポートを回収し、事務所で一括して審査・押印後、乗客に返却する方式です。停車時間が1時間と長くとられていますが、客が少ないため審査もすぐ終わり、列車の遅れもここで取り戻されます。
この先のウクライナは旧ソ連圏となり線路幅も1520 mmの広軌。この駅にも台車交換設備があります。ここからウクライナ側のヴァドゥル=シレトまでは広軌と標準軌の併用区間のため、この列車は台車交換を行わずにそのまま直通します。
ヴィクシャニを過ぎると、線路沿いに鉄条網が出現します。出国審査が済んだため、線路内は「制限区域」として立ち入りが制限されているようです。
線路は1520 mmの広軌と1435 mmの標準軌を組み合わせた4線軌条です。
「Україна」と書かれた看板と、監視所が見えてきます。いよいよウクライナ入国です。
国境を越えると、線路沿いに古めかしい木製の電柱が並び、少しだけ雰囲気が変わります。
ヴィクシャニから20分ほどで、ウクライナ側最初の駅であるヴァドゥル=シレトに到着。列車はここで終点です。
到着後に国境警備の係官が列車に乗り込んできて、国境審査の質問を受けますが、英語が通じないので話が進みません。幸い、同乗の初老の男性を迎えに駅に来ていた家族の方が通訳を引き受けてくれ、無事に係官と話が通じて審査完了。駅舎内でパスポートにも押印してもらいウクライナ入国です。通訳してくれた方からは親切にも「良ければチェルニウツィまで車で送っていくよ」との申し出も受けましたが、列車で旅を続けたいのでと丁重にお断りします。